伝統的な意匠
伝統的な意匠が、文化の象徴として扱われることが多い。

例えば、藍染の色も、それによって染められた文様も、
日本の伝統色・伝統文様として扱われる。
例えば、アンデスのポンチョやアワイヨに織り込まれた文様も、然りである。
それらの『象徴』は、
切り取られたり、デザイン化されたりして、
多くの人たちの目に触れる。

・・・・・・

本来、伝統的な意匠は、人々の暮らしの中で、
必然的に生じた『姿』である。
日々の暮らしが生み出した、必然の美しさである。

そこには、人々のさ生命(いのち)が込められている。
無意識の、必然の…。
生命の、奥深いところから、
自ら、静かに輝く美しさである。

音楽もまた然り。

それらを軽く、弄んではならない。
それは、生命への冒涜ですらある。

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# by mixturamusic | 2018-08-05 15:27
ゴツゴツとした手
マイアミからラパスに向かう機内で、白人ご夫妻と席が横並びになった。

おそらく80歳近いと思われるお二人は、離陸後も、
話すこともなく、笑うこともなく、
映画を観ることも、音楽を聴くこともなく、
シートベルトを締めたまま、背筋を伸ばし、
真っ直ぐ前を向いて座っていた。

機内サービスが始まる。
通路側の私が、窓際に座ったMr.にドリンクを手渡すと、
初めて笑顔で「Thank you」…その時、
コップを持ったMr.の手を見て、キュンと胸が熱くなった。
節くれだったゴツゴツとした手。
紛れもなく農夫の手である。
無意識にMrs.の手に目が行くと、こちらも節々がしっかりとした大きな手である。

アメリカの農地を、私は知らない。
作物も、農法も、農機具も。
しかし、長年土と共に働いてきた手は、決して嘘をつかない。
不意にその手を見て胸が熱くなる自分を、幸せだな…と思った。

トルストイの『イワンのばか』の最後に、
『どんな人でも手のゴツゴツした人は、食事のテーブルにつけるが、
そうでない人はどんな人でも、他の人の食べ残しを食べなければならない』
というイワンの国のならわしが出てくる。

真っ先にテーブルに案内されるべき老夫婦。
昨年のボリビア行きの、小さな…しかし時々思い出す、大切な記憶のひとつである。
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# by mixturamusic | 2018-05-31 14:04
高柴デコ屋敷・春の宴
宴の日の朝、午前9時にデコ屋敷を尋ねると、
橋下廣司さんは、いつもの仕事場で、木型に和紙を張っていた。
「アーどうもー、桜はもう散っちまったもんで、今日は家の中でやろうと思って。」
私たちを見つけると、いつものようにニコニコと話しかけてくれた。

いつもと変わらぬ日常。

例年のように、ツバメたちが帰ってきて、屋敷の梁に巣を掛けている。

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「ばあちゃんはね、毎朝5時からここでこうしてペッタンペッタンやってるの。」
昨年97歳で大往生された橋本アサさんの声を思い出す。
木型に紙を張り続けた手は、大きく温かかった。

江戸時代から続く日常。
詳細は変われども、本柱は変わらない。

高柴にあるデコ屋敷は四件。
みんな本家から分かれた親戚だそうだ。

いつだったか、廣司さんが当家の歴史を話してくれたことがある。

本家から分家した経緯や、
跡継ぎが途絶えそうになったこと、
昔と今の仕事内容の違い…

時に、江戸時代に作られた木簡やデコを見せてくださることもある。
「おら、なかなかこんな風にはできねーんだなぁ。」
「どういうわけか、昔のものの方が生き生きとしてな。」

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「おら、子どもの時からこの桜を見て育ったもんで、
桜に育ててもらったような気さえしています。」

「桜の根っこは、もしかしたらこの屋敷の下まできているんじゃねえかと。
花は花だけで咲くんじゃねくて、根っこが栄養を吸った姿なんだなぁ。」

「こっちから桜を見るように、この世の中を、いつも一番下から眺めて、
そうすると、全部がきれいに見える。
そんなことをひょっとこさんから教えてもらっています。」

「今まで、黙ってやって来たども、
70過ぎてからは、いろいろ伝えねばと思って、口を開くようにしています。」
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浪江、富岡のひょっとこ連の方々が集まり、今年の宴が始まった。

演奏も即興、踊りも即興。

「ところで廣司さん、どうやって木下さんと知り合ったんだぁ?」
「私は廣司さんの大ファンで…」
「いやー、十五、六年前から、木下さんは夕方にフラッとやって来て、だまーって人形さ見て帰るんだ。」
「奧さんとはいろいろ喋ったけども、ずっと黙って人形さ見てくんだ。」

実際に、初めて私たちがデコ屋敷を訪ねたのは7年前。
それから幾度となく伺っている。
廣司さんの錯覚は本当に嬉しい。
私たちも、もっとずっと前からのお付き合いだと感じている。

「あのー箏のねーちゃんは?」
「今年はスエーデンに行くって聞いていますよ。」
「そりゃ、すごいな!」
「来春はまた一緒にきますね。」
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宴の最中、仕事場では18代目の将司くんが絵付けをしていた。
デコ屋敷の日常は続いてゆく。



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# by mixturamusic | 2018-04-28 11:26
色ソメツ、心ソメツ
故郷蒲郡への道すがら、
藤枝のギャラリー侘助に、個展初日の山内武志さんを訪ねた。

「これから蒲郡ですか? それとも今からお帰り?」
少し驚いた顔をしながら、いつものように温かく迎えて下さった。
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山内さんの作品は、どれも温もりが溢れている。

「染め物はね、気持ちさえあれば誰にでもできる仕事なんですよ。」
「僕がそんなこと言うと『技術を馬鹿にするのか!』ってすぐに叱られちゃう。」
「でもね、昔から決まったことを、ただその通りにやっているだけだから…お箸だって昔の人が考えて教えてくれたから、当たり前に使えているわけで、染め物だって、自分が新たに考えたことなんて、そう滅多にはないですよ。」
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若かりし日の山内さんは、家業の染物屋の仕事を覚えながら、型染めの人間国宝・故芹沢銈介氏の工房に入り修行、晩年の芹沢氏が、最も頼りにしていた弟子のひとりである。

「それでもね、いつまでこの仕事が続くか…」
「昔からの材料がもう手に入らない。染料も、脱脂した糠も、突然手に入らなくなるんだよ。」
「なくなる事が分かっていれば、二生分くらいは買っといたんだけどなぁ。」
「まぁそのうち、江戸時代みたいに、グレイと茶色だけになっちゃっても面白いんだけどね。」
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浜松の工房に伺うと、山内さんは必ず働いている。

「今日もこれから帰って、ちょっとやっておかなきゃいけない仕事があってね。」
「明日は晴れるから、今日のうちにやっておけば、朝までには乾くでしょ?」

全ての工程を、ひとり手作業でこなされる山内さん。

師・芹沢銈介の心が、山内武志さんの命に生きている。
柳宗悦の心偈(こころうた)『色ソメツ、心ソメツ』が、
山内さんの仕事に生きている。






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# by mixturamusic | 2018-03-25 00:15
アメリカ…テキサスの食べもの事情
日本とテキサスの時差はマイナス15時間。
成田を昼前に発つと、12時間のフライトでも、
ダラスにはその日の朝9時前には着いてしまう。

少し休んでから、友人の運転でオースチンへと向かった。

途中、ウエストという街で小休止。
「ここに美味しいコラーチェの店があるんだ」
コラーチェとはチェコ発祥のパンで、フルーツのジャムやチーズがのっている。
「ウエストには、たくさんのチェコ・スロバキアからの移民が住んでいてね。」
お店は行列ができるほどの大盛況、
カウンターの向こうには、東欧の顔立ちの人たちが忙しく働いている。
コラーチェ…コーヒーによく合う、甘く美味しい菓子パンである。

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ダラスからオースチンまで3時間半、
地平線に沈む太陽を眺めながら、車は次第に街に入っていった。
オースチンはダラスの州都、文化的な活動がとても盛んだという。

「テキサスと言えばバーベキュー、
中でもここオースチンのバーベキューは一番さ。」
カウンターに並んで、付け合わせを自由に取って行く。
お皿の代わりに、クッキングシートを敷いたお盆である!
肉の重さはリブラ(約500g)単位。
私は小さな声で、1/4 lb.を注文した。

賑やかな店の中は、ビールを飲みながらバーベキューを食べる老若男女。
お盆の上を見ると、かなりのボリュームの肉やソーセージがのっている。
「テキサスサイズと言ってね…」
アメリカの中でも、テキサスは何かにつけ大きいのだそうだ。

翌日の夜、オースチンに住む友人が連れて行ってくれたドイツ料理の店。
ソーセージがとても美味しかった。
「この辺りはドイツからの移民が多くてね。」
店のカウンターの中には、ものすごい数の地ビールのコックが並んでいた。

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サウス・ダラスにあるメキシコ人街に連れて行ってもらった。
街行く人はヒスパニック系、看板もスペイン語ばかり。
勝手にイメージする、ホコリっぽいテキサスの街並みだ。
「ここでオスワルドが捕まったんだ。」
ケネディ大統領暗殺の犯人逮捕の現場も、日常のホコリの中にとけ込んでいる。

お昼ご飯に入ったステーキハウス。
8オンスのリブロースがスペシャルランチだそうだ。
付け合わせを取って、肉の焼けるのを待つ。
差し出されたディッシュの上の、ジャガイモの大きさに驚いた。
「Oh ! Texas size !」

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これまでアメリカの食べ物について、良い印象を持ったことがなかった。
今でも良い印象は持っていない。

「この看板はアメリカのチェーン店。食べられたものじゃない。」
ダラスに30年以上住むボリビア人の友人は、
当初、本当に食べ物に苦労したと言う。

実際、空港のレストランで食べるものは、毎回???が付くほど不味い。
今回の旅でも、全ての食事が美味しかったわけではない。
が、選び方と食べ方に気を付ければ、
美味しいものにも出会えることがよく分かった。

しかし、『食べる』という事に対して、
アメリカと日本では、大きな意識の違いがあることも感じた。
それは体質的な違いのように思う。

日本で、むやみにアメリカの真似をするのはよした方が良い。




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# by mixturamusic | 2018-02-27 22:28



  木下 尊惇 
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