高柴デコ屋敷・春の宴
宴の日の朝、午前9時にデコ屋敷を尋ねると、
橋下廣司さんは、いつもの仕事場で、木型に和紙を張っていた。
「アーどうもー、桜はもう散っちまったもんで、今日は家の中でやろうと思って。」
私たちを見つけると、いつものようにニコニコと話しかけてくれた。

いつもと変わらぬ日常。

例年のように、ツバメたちが帰ってきて、屋敷の梁に巣を掛けている。

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「ばあちゃんはね、毎朝5時からここでこうしてペッタンペッタンやってるの。」
昨年97歳で大往生された橋本アサさんの声を思い出す。
木型に紙を張り続けた手は、大きく温かかった。

江戸時代から続く日常。
詳細は変われども、本柱は変わらない。

高柴にあるデコ屋敷は四件。
みんな本家から分かれた親戚だそうだ。

いつだったか、廣司さんが当家の歴史を話してくれたことがある。

本家から分家した経緯や、
跡継ぎが途絶えそうになったこと、
昔と今の仕事内容の違い…

時に、江戸時代に作られた木簡やデコを見せてくださることもある。
「おら、なかなかこんな風にはできねーんだなぁ。」
「どういうわけか、昔のものの方が生き生きとしてな。」

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「おら、子どもの時からこの桜を見て育ったもんで、
桜に育ててもらったような気さえしています。」

「桜の根っこは、もしかしたらこの屋敷の下まできているんじゃねえかと。
花は花だけで咲くんじゃねくて、根っこが栄養を吸った姿なんだなぁ。」

「こっちから桜を見るように、この世の中を、いつも一番下から眺めて、
そうすると、全部がきれいに見える。
そんなことをひょっとこさんから教えてもらっています。」

「今まで、黙ってやって来たども、
70過ぎてからは、いろいろ伝えねばと思って、口を開くようにしています。」
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浪江、富岡のひょっとこ連の方々が集まり、今年の宴が始まった。

演奏も即興、踊りも即興。

「ところで廣司さん、どうやって木下さんと知り合ったんだぁ?」
「私は廣司さんの大ファンで…」
「いやー、十五、六年前から、木下さんは夕方にフラッとやって来て、だまーって人形さ見て帰るんだ。」
「奧さんとはいろいろ喋ったけども、ずっと黙って人形さ見てくんだ。」

実際に、初めて私たちがデコ屋敷を訪ねたのは7年前。
それから幾度となく伺っている。
廣司さんの錯覚は本当に嬉しい。
私たちも、もっとずっと前からのお付き合いだと感じている。

「あのー箏のねーちゃんは?」
「今年はスエーデンに行くって聞いていますよ。」
「そりゃ、すごいな!」
「来春はまた一緒にきますね。」
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宴の最中、仕事場では18代目の将司くんが絵付けをしていた。
デコ屋敷の日常は続いてゆく。



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by mixturamusic | 2018-04-28 11:26
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  木下 尊惇 
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