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本能の美
民藝運動の祖柳宗悦は、もともと宗教学者である。
若き頃はキリスト教を、のちに仏教を深く学んだ。
より良い社会の実現を志す眼から、民衆工藝の美しさを見出し、
大無量寿経の願文より『美の法門』をうちたてた。

『用の美』....暮らしの中の必要性が産み出した美。
言い換えれば、暮らしの中の『必要』は、常に絶対美を伴う...ということ。
さらに言い換えれば、『いのちの美』『本能の美』とも言えるだろう。
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・・・・・
ある光景を思い出す。
会津三島町の工人まつりで.....

今や名高い会津三島町の『山葡萄籠』は、
地元の人たちが秋にキノコを収穫するために使っていた。
地元の山中で取れる山葡萄の蔓で、地元の名人たちが農閑期に編んでいたもの。
編み目が荒く、収穫したキノコや山菜の胞子が編み目から地面に落ち、
翌年以降もキノコや山菜が育つ…という仕組みだ。
太い蔓は太いなりに、
曲がった蔓は曲がったなりに、
それが特有の造形美を形作る…まさに『無作為の美』。

ここ数年、その魅力が広く知れ渡ると、
行商人が『山葡萄籠』を買い漁りに来るようになったと言う。
限られた原材料に、限られた職人。
瞬く間に価格は高騰した。
それに危機感を抱いた会津三島町が『山葡萄籠』を一括管理して、
年に一度、一般向けに売り出すのが『工人まつり』である。

森の中に張られたテントをブースに、何人もの職人さんたちが店を出す。
平等に購入機会を…ということで、イベント・オープンの合図があるまで売買禁止。
合図の前からお目当の店の前に群がる人、人、人…。
驚くことに最前列の何人かは、もうすでにいくつもの籠の持ち手に腕を通している。
「ハイどうぞ」の合図とともに、大方の籠は売れてしまうのだ。
そんなことをする人のほとんどが妙齢の女性。
その出で立ちは、『ザ・民藝』とでも言おうか…
これ見よがしにも見えるほど、手織りや手染めの『高級品』を纏っている。

高級ブランド化した民藝に、
腕からいくつもぶら下げられた山葡萄籠に、
柳宗悦の心は、その面影さえ認められない。
本能の美_c0357413_10173340.jpeg
民藝は『有名』になり過ぎてしまった。
柳の心を置き去りに、
『民藝』自体が、名声の道を歩かされるようになってしまった。
これほど追い立てられれば、『民藝の心』など語っている時間もなかろう。

宗教学者としての、そして宗教家としての柳宗悦の心を、
どれほどの人が知っているだろうか?
どれほどの人が関心を持っているだろうか?
どれほどの人が理解しているだろうか?

本来民藝は寡黙なはず。
本来民藝は無名のはず。
本来民藝は大金と無縁のはずである。

有名は『毒』を併せ持つ。
名声からは『猛毒』が生じる。
それらが『もの』の姿を醜くする。
それらが『もの』を『美』から遠ざけることを、
『本能の美』から乖離していくことを、柳宗悦は発見したのである。
本能の美_c0357413_10220085.jpeg
・・・・・
ボリビアはいまバブルである。
どこへ行っても、ビルの建築は盛んで、車の数もどんどん増えている。
商業施設も、レストランも増え、
物価も上昇して…
お金が回れば、収入も増える。

多くの人たちはそれを『発展』と呼ぶ。
大気汚染、水質汚染、自然破壊、自給率低下、貧困、格差、治安悪化…
そうしたものが目の前に表れたとしても、
多くの人たちは『発展』を望む。
際限のない発展などあり得ないことには目をつむり、
ただただ『発展』の名で、現状を肯定する。

ーそれは何もボリビアにかぎったことではないが…
本能の美_c0357413_10593941.jpeg
現在のボリビアの音楽状況は最悪だ。
いわゆる売れているものの、どこを取っても美しさの欠片すらない。
フォルクローレの楽器を使ってはいても、それは音の素材としか聞こえない。
ボリビアのリズムを使ってはいても、それらは興奮剤としての役割だけ。
メロディは耳心地の良さだけを抽出し、
歌詞に至っては…言葉がないほどに劣悪である。
そしてどれを聞いても同じ響きがする。

「まともなコンサートには人が入らない…」
多くの同僚音楽家たちから、何度この言葉を聞いたことか。
「酔いが回って踊りまくれればいいんだ。」
「一発ヒットすればもう安泰さ。」
「彼らのギャラはビックリするくらい高いんだぜ!」

そう!驚くべきことに、今のボリビアでは音楽で『稼げる』のだ!
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ペーニャ・ナイラ時代の同僚と、またそんな話になった。

「俺たちがペーニャで音楽をやっていた頃って稼げたか?」
「いや全然。せいぜい交通費の足しになったくらいかな…」
「だからみんな一生懸命にやったんだと思わないか?」
「・・・・・・・・」
「みんなお金にはならない事をよくよく承知の上で、音楽に情熱を傾けていた。」
「純粋に音楽を愛するヤツらだけが、愛情だけで音楽をやっていたんだ。」
「だから全てのグループに特色があったし、力もあった。」
「もちろん上手い下手はあったし、売れた売れないもあったさ。」
「でもそれは付録のようなもの。」
「みんな私生活を犠牲にしてまで、音楽に愛情を注いでいたんだ。」

「今は音楽で稼げる。音楽で金儲けができるんだ。」
「一発ヒットを飛ばせば、大金と名声が転がり込んでくる。」
「だから売れるかもしれないものばかりを作ろうとする。」
「音楽に対する愛なんてこれっぽっちもない連中が、
 金と名声のために音楽のようなものを作っている。」
「それではどんどん腐敗していくのが当然だ!」

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柳宗悦が夢見た『美による理想社会の実現』。
まだまだ道のりは遠いようだが、私も必ず行き着けると信じている。

本能を信じること。
本能を曇らせないこと。
体制というものに惑わされないこと。
名声の偽りに毒されないこと。
お金の魔力に拐かされないこと。

レコーディングは出来なかったが、
自分たちのすべき仕事が明確になったことは
大きな収穫であった。
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by mixturamusic | 2019-07-25 16:01
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  木下 尊惇 
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