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故郷蒲郡への道すがら、 藤枝のギャラリー侘助に、個展初日の山内武志さんを訪ねた。 「これから蒲郡ですか? それとも今からお帰り?」 少し驚いた顔をしながら、いつものように温かく迎えて下さった。 ![]() 山内さんの作品は、どれも温もりが溢れている。 「染め物はね、気持ちさえあれば誰にでもできる仕事なんですよ。」 「僕がそんなこと言うと『技術を馬鹿にするのか!』ってすぐに叱られちゃう。」 「でもね、昔から決まったことを、ただその通りにやっているだけだから…お箸だって昔の人が考えて教えてくれたから、当たり前に使えているわけで、染め物だって、自分が新たに考えたことなんて、そう滅多にはないですよ。」 ![]() 若かりし日の山内さんは、家業の染物屋の仕事を覚えながら、型染めの人間国宝・故芹沢銈介氏の工房に入り修行、晩年の芹沢氏が、最も頼りにしていた弟子のひとりである。 「それでもね、いつまでこの仕事が続くか…」 「昔からの材料がもう手に入らない。染料も、脱脂した糠も、突然手に入らなくなるんだよ。」 「なくなる事が分かっていれば、二生分くらいは買っといたんだけどなぁ。」 「まぁそのうち、江戸時代みたいに、グレイと茶色だけになっちゃっても面白いんだけどね。」 ![]() 浜松の工房に伺うと、山内さんは必ず働いている。 「今日もこれから帰って、ちょっとやっておかなきゃいけない仕事があってね。」 「明日は晴れるから、今日のうちにやっておけば、朝までには乾くでしょ?」 全ての工程を、ひとり手作業でこなされる山内さん。 師・芹沢銈介の心が、山内武志さんの命に生きている。 柳宗悦の心偈(こころうた)『色ソメツ、心ソメツ』が、 山内さんの仕事に生きている。 #
by mixturamusic
| 2018-03-25 00:15
日本とテキサスの時差はマイナス15時間。
成田を昼前に発つと、12時間のフライトでも、 ダラスにはその日の朝9時前には着いてしまう。 少し休んでから、友人の運転でオースチンへと向かった。 途中、ウエストという街で小休止。 「ここに美味しいコラーチェの店があるんだ」 コラーチェとはチェコ発祥のパンで、フルーツのジャムやチーズがのっている。 「ウエストには、たくさんのチェコ・スロバキアからの移民が住んでいてね。」 お店は行列ができるほどの大盛況、 カウンターの向こうには、東欧の顔立ちの人たちが忙しく働いている。 コラーチェ…コーヒーによく合う、甘く美味しい菓子パンである。 ![]() ダラスからオースチンまで3時間半、 地平線に沈む太陽を眺めながら、車は次第に街に入っていった。 オースチンはダラスの州都、文化的な活動がとても盛んだという。 「テキサスと言えばバーベキュー、 中でもここオースチンのバーベキューは一番さ。」 カウンターに並んで、付け合わせを自由に取って行く。 お皿の代わりに、クッキングシートを敷いたお盆である! 肉の重さはリブラ(約500g)単位。 私は小さな声で、1/4 lb.を注文した。 賑やかな店の中は、ビールを飲みながらバーベキューを食べる老若男女。 お盆の上を見ると、かなりのボリュームの肉やソーセージがのっている。 「テキサスサイズと言ってね…」 アメリカの中でも、テキサスは何かにつけ大きいのだそうだ。 翌日の夜、オースチンに住む友人が連れて行ってくれたドイツ料理の店。 ソーセージがとても美味しかった。 「この辺りはドイツからの移民が多くてね。」 店のカウンターの中には、ものすごい数の地ビールのコックが並んでいた。 ![]() サウス・ダラスにあるメキシコ人街に連れて行ってもらった。 街行く人はヒスパニック系、看板もスペイン語ばかり。 勝手にイメージする、ホコリっぽいテキサスの街並みだ。 「ここでオスワルドが捕まったんだ。」 ケネディ大統領暗殺の犯人逮捕の現場も、日常のホコリの中にとけ込んでいる。 お昼ご飯に入ったステーキハウス。 8オンスのリブロースがスペシャルランチだそうだ。 付け合わせを取って、肉の焼けるのを待つ。 差し出されたディッシュの上の、ジャガイモの大きさに驚いた。 「Oh ! Texas size !」 ![]() これまでアメリカの食べ物について、良い印象を持ったことがなかった。 今でも良い印象は持っていない。 「この看板はアメリカのチェーン店。食べられたものじゃない。」 ダラスに30年以上住むボリビア人の友人は、 当初、本当に食べ物に苦労したと言う。 実際、空港のレストランで食べるものは、毎回???が付くほど不味い。 今回の旅でも、全ての食事が美味しかったわけではない。 が、選び方と食べ方に気を付ければ、 美味しいものにも出会えることがよく分かった。 しかし、『食べる』という事に対して、 アメリカと日本では、大きな意識の違いがあることも感じた。 それは体質的な違いのように思う。 日本で、むやみにアメリカの真似をするのはよした方が良い。 #
by mixturamusic
| 2018-02-27 22:28
時差ボケを治すためにと、妻に誘われて吾妻山に登った。
隣町二宮にある吾妻山は、今の季節、菜の花を楽しむ人で賑わう。 人の多い所を敬遠する私たちは、噂には聞けども、今回が初めてである。 二宮駅北口からすぐの、『役場口』から登る。 気候の良い日曜日という事もあり、けっこうな賑わいである。 途中300段の石段でバテた。 「こんなはずでは」と思いつつ、何度もベンチに腰を掛けた。 石段を過ぎると、今度は坂道である。 斜面を利用した大きな滑り台があり、子どもたちの歓声が賑やかだ。 息の上がった身体で下から眺めると、頂きはまだまだ上にある。 やっとたどり着いた山頂の公園。想像以上の景色である。 相模湾の向こうに三浦半島。 水平線に沿って目を右に向ければ、小田原の町の向こうに伊豆半島が見える。 ![]() 箱根の山々から富士山、そして薄っすらと雪化粧した丹沢の山塊。 疲れも忘れる良い眺めである。 ![]() ————————— 翌々日、再び吾妻山に登った。 今度は知人の犬を散歩させながら。 別の登り口....傾斜が緩やかな『中里口』の途中からである。 元気な豆柴に引っ張られながら、 今度は息が切れることもなく、一気に山頂に到着した。 「一昨日はやっぱり疲れていたのか.....」 少し安心しながら、再び景色を満喫した。 #
by mixturamusic
| 2018-02-08 21:28
テキサス州ダラス。
いつもはトランジットで立ち寄るだけの街に、 数日間だけ滞在した。 晴天に恵まれ、好運に恵まれ、 何よりも良き友に恵まれて、 ダラス〜オースチンと、充実した日々を過ごすことができた。 帰国の日の早朝、友が空港まで送ってくれた。 “Come back soon, really?” 友の奧さんの笑顔が、朝日に輝いていた。 ![]() 遅ればせながら、本年もよろしくお願い致します。 #
by mixturamusic
| 2018-02-03 00:46
ラパスに着いて最初の土曜日の夕暮れ、
外から聞こえてくるバンダの音に誘われて、 マルセロの家族と一緒にブッシュ通りに出た。 どこか地方の若者たちのモレナーダに、 十代後半と思しき若者たちのバンダが音楽を付けていた。 「いまは若者たちのバンダの方が仕事が多い。酒代がかからないから。」 そのままブッシュ通りを横切って、ハイチ市場の前にあるマーケットへ行った。 「このマーケット、大きくはないけど、だいたい何でも揃うんだ。」 18才になったマルセロの息子マテオは、日用品をかごに入れてゆく。 「ぼくはこの店知らないよ。」 「そう?ずいぶん前からあるんだけどね。」 街の変化は、冷静に7年の経過を感じさせる。 東の空に、きれいな月が輝いていた。 「この月、クレッシェンドかデクレッシェンドか分かる?」 「デクレッシェンドじゃないのかなぁ?」 「ううん、クレッシェンドだよ。」 マテオも、いつの間にかがっしりとした体格の若者になった。 ![]() 月の光は、静かに、美しく、夜道を照らす。 灯りの消えた部屋の隅をも、 ほのかに、優しく照らすのが、月の光だ。 ラパスの街の隅から隅まで、 月の光は知っている。 どこで誰が、何を思っているのか、 月の光は知っている。 黙して語らぬ月の光は、 何から何まで、知っている。 ![]() 今宵の月も、息をのむほどに美しい。 明日は冬至である。 #
by mixturamusic
| 2017-12-21 21:26
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